3. MTR-01 (Moku Tune Racing Moulton) ができるまで / Stage1

今回のレース参戦にあたって、モールトンで出場するからには、まずサスペンションの動きについて考えなければいけません。フレームの基本設計を変えることなく、どのような方法でサスペンションの動きを抑えることができるか。完全にサスペンションを固定させてしまえば作業も簡単で話も早いのですが、モールトンとなると話は別です。


 モールトンも、クルマと同様にサスペンションを備えた自転車として設計されているため、サスペンションを完全にロック(固定)させてしまうとフレームに負担がかかり、破損の危険性も考えられます。そのため、動きを最小に抑えることを第一に考えました。リアサスペンションにラバーコーンを採用したのも、純正のハイドロラスティックに比べて動きを最小限に抑えることができるからです。そこで、フレームの形状に合わせてアルミ削り出しのラバーコーンカップを製作し、同時に横剛性も上げることができました。【ページ下・画像1~2参照のこと】


 リアフォークピボットも、横剛性を上げるために、純正のトーションスプリング(ラバースプリング)から、ソリッドピボットに変更しました。このパーツも純正では対応できないため、新たにピボットボルト一式を製作しました。【ページ下・画像3~5参照のこと】


 またフロントサスペンションも、パーツを製作して完全にロックさせることも簡単でしたが、強化フォークに変更し、その他数カ所に手を加え、動きを最小に抑えることができました。


 ギヤ比については、想像以上に悪戦苦闘してなかなか思い通りには進みませんでした。まずロードバイクのトップ集団に入って、平均速度40km/hとしてレースを進める場合、ギア比とケイデンス(rpm:ペダルの回転数)を計算すると以下のような組み合わせが出てきます。


ロードバイク(27インチ):フロント53T×リア11T ケイデンス: 90rpm

モールトン (20インチ):フロント62T×リア11T ケイデンス:100rpm


 この場合、モールトンの62-11Tのギア比だと、ケイデンス100rpmも回さなければいけません。4時間耐久のレースとなると選手への負担も大きいと考えたので、ケイデンス90rpmにするためには、どうしても9Tが必要だと考えました。


 フロントのアウターギア62Tは、Mokuのオリジナルパーツで対応できましたが、問題は9Tのリアギヤです。9Tは既存の物が流通していますが、合わせるハブも9T専用に設計されているため、11T専用に設計されているその他のグレードや他メーカーのものと組み合わせることができません。しかし、レースとなると軽さ・ベアリングの性能・耐久性も必要です。そこで、より軽量で高性能なハブに9Tのギアが装着できないかを考え、数種類のハブを分解した結果、細部に渡って軽量パーツで構成されていて、耐久性も高いドイツ製の"Tune"がベストだろうと判断しました。


 ハブが決まれば次はパーツの設計です。今回Tuneのハブで使用する部分は外側のボディーだけです。それ以外は全てはじめから設計し、製作しなければいけません。分解し、ひとつひとつのパーツを9T専用に設計していく訳ですが、やはりそう簡単には進みません。何とか試作品を完成させ、試乗してみると、乗りはじめから様子がおかしい…ハブの回転が悪いのです。メカニックスタンドで調整している間は何の問題もなかったのですが、実際に試乗して負荷をかけると回転が悪くなってしまうのです。もう一度設計を見直し、再度パーツの製作に取りかかりました。


 ですが実際はそんな悠長なことを言ってられる状況ではありませんでした。レースまで2日を切っていたのです。今回は間に合いそうもないので、既存のパーツでチャレンジするしかないかと諦めようとしても、やはり納得がいかない。ハブに関しては、一年目でクリアしなければならない箇所と目標を立てていただけに、焦りばかりが前に出て上手い具合に進みませんでした。気持ちを奮い立たせて最後までひとつひとつ進めていき、ようやく前日ギリギリに1点の悔いを残して、仕上げることが出来ました。最後に間に合わなかった1点とは、9速から10速への超クロスレシオの改造でした。その1点を残してStage1の“MTR01”は当日を迎えたのです。

基本ジオメトリーを維持しながら、今まで手を加えなかった部分にも手を入れ、新たなパーツを試行錯誤しながら仕上げていく…。店を閉めてからモールトンと向き合う毎日。すると今まで以上にたくさんのことが見えてきました。


 ベース車両は、今後の改良を踏まえてアレックス・モールトン・バイシクルの最新モデル “ダブルパイロン” を選択しましたが、レースシーンでモールトンがロードバイクと互角に戦えるようにするためには、いくつかの難題をクリアしなければいけませんでした。許された期間が短いことから、今回はサスペションの挙動とギヤ比の問題、この2点に研究箇所を絞りました。

1)純正のハイドロラスティックスプリング

2)純正から、ラバーコーンスプリングを装着するために製作したアルミ削り出しのラバーコーンカップ。

3)ラバー製の純正ピボットフレクシター。フレームに圧入しているピボットフレクシターを、フレームから取り外します。

4)画像左:純正のラバー製トーションスプリング。画像中央&右:個体差のあるフレームに合わせて数種類製作したソリットピボット。

5)製作したソリッドピボットを取り付けた状態。

6)Shimano Capreo 9Tのリアギアを装着するために、数種類のハブを一度分解して設計します。

7)Tuneフリーハブと、Shiamano Capreo 9Tを組み合わせたリアホイール。

8)ジグに乗せ、山本選手のポジションに合わせてパーツを選択します。既存のパーツが無い場合は、新たに製作します。

9)ダブルパイロン用のチタン製ウィッシュボーンステムを製作。

Moku Tune Racing Moulton

レース参戦記

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